インフルエンザについて。ワクチンを接種してもかかるときはある。でも、無意味じゃない。

インフルエンザワクチン、打ってもかかることがあります

毎年インフルエンザのシーズンになると、

「去年ワクチンを打ったのに、インフルエンザになりました」

「打ってもかかるなら、ワクチンをする意味はありますか?」

という質問を受けます。

たしかに、インフルエンザワクチンを接種していても、インフルエンザになることはあります。

それでも当院では、インフルエンザワクチンをおすすめしています。

インフルエンザワクチンは「打てば絶対にかからないワクチン」ではありません。
かかる可能性を減らし、さらに重いインフルエンザになる可能性を減らすためのワクチンです。

今回は、インフルエンザワクチンの効果や、子どもで心配されるインフルエンザ脳症、治療薬についてまとめます。

インフルエンザはどんな病気?

インフルエンザでは、

  • 発熱
  • 頭痛
  • 強いだるさ
  • 筋肉痛、関節痛
  • 鼻水
  • のどの痛み

などがみられます。

一般的な風邪よりも、発熱や全身のだるさが急に強く出るのが典型的です。

ただ、小さなお子さんでは必ずしも39〜40℃の高熱になるとは限りません。 流行している時期には、38℃前後、あるいはそれほど高くない発熱でもインフルエンザということがあります。

多くは数日〜1週間ほどで自然に回復しますが、肺炎、中耳炎、そして小児ではインフルエンザ脳症などの合併症を起こすことがあります。[1]

ワクチンを打っていても、インフルエンザになることはあります

残念ながら、

ワクチンを打っていても、インフルエンザになることはあります。

インフルエンザウイルスは毎年少しずつ姿を変えます。 また、その年に流行するウイルスとワクチン株がどの程度合っているかによっても、効果は変わります。

日本の小児を対象に約1万3千人を調べた研究では、ワクチンによるインフルエンザ発症予防効果は全体で約45%でした。[2]

また、6歳未満の子どもを対象にした国内研究でも、2回接種による発症予防効果はシーズンによっておよそ41〜60%と報告されています。[3]

つまり、ワクチンを打った子の中にもインフルエンザになる子はいます。

でも、

「ワクチンを打ったのに、インフルエンザになった」
=「ワクチンには意味がなかった」


ということではありません。

「かかった・かからなかった」だけで考えない

例えば、ワクチンによってインフルエンザになる人を半分に減らせたとしても、残りの人はインフルエンザになります。

その一人だけを見れば、

「せっかく打ったのに、結局かかった」

となります。

でも、100人、1000人という単位で見れば、ワクチンによってインフルエンザにならずに済んだ人がたくさんいます。

そして、もう一つ大切なのが重症化を減らすことです。

日本の小児を対象にした研究では、インフルエンザワクチンによってインフルエンザAによる入院が約半分に減少していました。[2]

別の日本の大規模研究でも、ワクチン接種によってインフルエンザだけでなく、肺炎やインフルエンザに伴う入院が減少していました。[4]

ですから私は、

「かかりにくくするだけでなく、重くならないためにも打つ」

と説明しています。

小児で特に心配な「インフルエンザ脳症」

小児のインフルエンザで、私たち小児科医が特に注意している合併症のひとつが、インフルエンザ脳症です。

頻度としてはまれですが、発熱から比較的早い時期に、

  • 呼びかけても反応がおかしい
  • 意味の分からないことを何度も言う
  • 意識がもうろうとしている
  • けいれんが長く続く、何度も繰り返す

といった症状がみられることがあります。

日本の報告では、発熱から中枢神経症状が出るまでの平均は1.7日でした。[5]

ですから、

「熱が出てまだ1日だから大丈夫」

とは必ずしも言えません。

ワクチンで脳症は防げる?

ここは少し難しいところです。

現在のところ、

「インフルエンザワクチンを接種すれば、インフルエンザ脳症を予防できる」

と直接証明した十分な研究はありません。

脳症そのものがまれなため、ワクチンを打った子と打っていない子を多数集めて、脳症だけを比較することが難しいためです。

ですから、「ワクチンを打てば脳症にはならない」とは言えません。

一方で、私は「ワクチンを打っても打たなくても、脳症の発症にはまったく無関係」と考える必要はないと思っています。

まず、ワクチンはインフルエンザそのものになる確率を下げます。

インフルエンザにならなければ、当然インフルエンザ脳症にもなりません。

また、インフルエンザで入院した小児1,217人を調べた研究では、けいれんや脳症などの神経合併症が10.8%にみられ、そのシーズンのインフルエンザワクチンを接種していないことが、神経合併症と独立して関連していました。[6]

もちろん、この研究だけで「ワクチンが脳症を直接防ぐ」と証明されたわけではありません。

脳症を100%防ぐワクチンではありません。
それでも、脳症を含めた重いインフルエンザのリスクを少しでも減らすために、接種する意味はある。

私はそのように考えています。

生後6か月〜1歳未満でも接種したほうがいい?

これも時々聞かれる質問です。

「まだ1歳にもなっていないのに、インフルエンザワクチンを打つ意味はありますか?」

「小さい赤ちゃんには、あまり効かないと聞きました」

たしかに、生後6か月〜1歳未満のインフルエンザワクチンについては、少し慎重に説明する必要があります。

日本の子どもを対象にした研究では、6〜11か月の乳児だけをみると、インフルエンザの発症を減らす効果が統計学的にはっきり確認できなかったシーズンがあります。[11,12]

1歳以上の子どもと比べると、まだ免疫機能が発達途中であることに加え、そもそも研究に参加する乳児の人数が少ないため、この年齢だけに限ったワクチンの有効性については十分なデータがあるとはいえません。

ですから、「生後6か月から打てば、インフルエンザをしっかり防げます」とまでは言い切れません。

それでも当院では、生後6か月を過ぎたお子さんにはインフルエンザワクチンをおすすめしています。

一番の理由は、小さいお子さんほどインフルエンザが重症化しやすいからです。

特に2歳未満の子どもは、年長児と比べてインフルエンザによる入院や合併症のリスクが高い年齢です。米国小児科学会(AAP)も2歳未満を重症化リスクの高い年齢群としており、生後6か月以上のすべての小児に毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨しています。[13]

日本小児科学会も、生後6か月からインフルエンザワクチンを接種することを推奨しており、生後6か月〜2歳未満では注射の不活化インフルエンザワクチンを使用します。[7,14]

また、生後6〜11か月の乳児でも、ワクチン接種後にインフルエンザウイルスに対する抗体が作られることは確認されています。[15]

小児全体でみれば、インフルエンザワクチンによってインフルエンザに伴う入院がおよそ半分程度減少することも、複数の研究をまとめた解析で示されています。[16]

生後6〜11か月では、1歳以上ほどワクチンの発症予防効果に関するデータが十分ではありません。

それでも、インフルエンザが重症化しやすい年齢です。接種できる生後6か月を過ぎたら、少しでもインフルエンザのリスクを下げるために接種する意味はあると考えています。

「効果が100%ではない」と「打つ意味がない」は、同じではありません。

これは、この記事の最初に書いたインフルエンザワクチン全体の話と同じです。

特に保育園に通っている、上のお子さんが保育園や幼稚園、学校に通っているなど、家庭にインフルエンザが持ち込まれる機会の多い赤ちゃんでは、私は接種をおすすめしています。

なお、生後6か月未満の赤ちゃん自身にはインフルエンザワクチンを接種できません。この時期の赤ちゃんを守るためには、ご家族など周囲の方のワクチン接種や、手洗いなどの基本的な感染対策が大切です。

インフルエンザになったら、治療は?

現在、インフルエンザには、

  • タミフル(オセルタミビル)
  • リレンザ(ザナミビル)
  • イナビル(ラニナミビル)
  • ゾフルーザ(バロキサビル)
  • ラピアクタ(ペラミビル)

など、いくつかの抗インフルエンザ薬があります。

健康な小中学生などでは、抗インフルエンザ薬を使わなくても自然に治ることも多く、全員に必ず薬が必要というわけではありません。

一方、日本小児科学会は、幼児や重症化リスクの高い小児、呼吸器症状の強い患者などには抗インフルエンザ薬を推奨しています。[7]

当院では、小児ではタミフルを基本にしています

抗インフルエンザ薬はいくつかありますが、当院では特に乳幼児〜小児では、タミフル(オセルタミビル)を治療の基本にしています。

「タミフルが他の薬より必ず強く効く」という意味ではありません。

最近は1回飲むだけの薬や、1回吸入するだけの薬もあり、それぞれに便利な点があります。

それでもタミフルには、

  • 乳児から使用できる
  • 吸入のできない小さなお子さんにも使える
  • 長年にわたる使用実績がある
  • 重症例や肺炎例でも使用経験が豊富

という大きな利点があります。

日本小児科学会も、幼児では経口投与が可能であればオセルタミビルを推奨しています。 また、集中治療を必要とする重症例や肺炎例で最も使用経験が多いのもオセルタミビルです。[7]

そのため、特に小さなお子さんでは、現在でもタミフルが最も使いやすく、安心して選択しやすい薬だと考えています。

「タミフルを飲むと異常行動を起こす」は現在では否定的です

これは以前かなり大きく報道されたため、今でも心配される親御さんがいます。

一時期、日本では「タミフルを飲んだあとに異常行動が起きるのではないか」と問題になり、10代へのタミフル投与が原則差し控えとなっていました。

しかし、その後長年にわたって検討が続けられました。

その結果、

  • タミフルを飲んでいないインフルエンザ患者でも異常行動は起こる
  • タミフル以外の抗インフルエンザ薬を使用していても起こる

ことが確認されています。[8]

厚生労働省は2018年、長年の検討を踏まえて10代へのタミフルの原則使用差し控えを解除しました。[9]

さらに2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析でも、オセルタミビルを使用することで神経精神症状や異常行動が増えるという証拠は認められませんでした。[10]

現在の医学的な知見では、「タミフルを飲むと異常行動を起こす」という考え方は支持されていません。

厚生労働省の正式な表現では、薬との因果関係は現在も「不明」とされています。

ただ少なくとも、

「タミフルを飲ませると異常行動が怖いから、タミフルは使わない」

と考える必要はないと思います。

では、なぜ「異常行動に注意」するの?

大切なのは、異常行動そのものはインフルエンザで起こるということです。

薬を飲んでいても、飲んでいなくても起こります。

特に発熱から最初の2日程度は、

  • 突然走り出す
  • 意味の分からないことを言う
  • 幻覚のようなことを訴える
  • 窓や玄関から外へ出ようとする

といった行動がみられることがあります。

そのため厚生労働省も、薬を使ったかどうか、どの薬を使ったかにかかわらず、小児・未成年者では異常行動に注意するよう呼びかけています。[8]

特に発熱後2日程度は、できるだけ一人にせず、窓やベランダからの転落などが起きないよう注意してください。

異常行動とインフルエンザ脳症は同じではありません

高熱のときに、

「壁に何かいる」

「いつもと違う、よく分からないことを話した」

など、短時間だけ普段と違う言動がみられることがあります。

こうした一過性の異常言動があったからといって、すべてインフルエンザ脳症というわけではありません。

一方で、

  • 呼びかけても反応がおかしい状態が続く
  • 意識がもうろうとして会話にならない
  • けいれんが長く続く、または繰り返す
  • 一度よくなった意識が再び悪くなる
  • 明らかに普段とは違う状態が続く

といった場合には、脳症などを考える必要があります。

このような場合は、タミフルを飲ませて家で様子を見るのではなく、速やかに救急医療機関を受診してください。

「ワクチンを打ったのにかかった」で終わらせないでください

インフルエンザワクチンは、完璧なワクチンではありません。

接種していてもインフルエンザになることはあります。 毎年、私も外来でそういうお子さんを診察します。

それでも、

インフルエンザになる人を減らす。
入院する人を減らす。
重いインフルエンザになる人を減らす。

そのためにワクチンを接種する意味があります。

「去年ワクチンを打ったのにインフルエンザになったから、今年は打たなくてもいいかな」

ではなく、

「去年は打っていてもかかった。でも、打っていたことで得られたものもあったかもしれない」

と考えていただければと思います。

インフルエンザワクチンは
「打てば絶対にかからないワクチン」ではありません。

「かかる可能性と、重くなる可能性を減らすワクチン」です。

この違いを知ったうえで、毎年の接種を考えていただければと思います。


参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省.急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A.
  2. Sugaya N, et al. Three-season effectiveness of inactivated influenza vaccine in preventing influenza illness and hospitalization in children in Japan, 2013-2016. Vaccine. 2018;36:1063-1071.
  3. 国立感染症研究所.6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2013/14〜2016/17シーズンのまとめ.
  4. Shibata N, et al. Effectiveness of influenza vaccination for children in Japan: Four-year observational study using a large-scale claims database. Vaccine. 2018.
  5. Togashi T, et al. Influenza-associated acute encephalopathy in Japanese children in 1994-2002. Virus Research. 2004;103:75-78.
  6. Frankl S, et al. Influenza-Associated Neurologic Complications in Hospitalized Children. Journal of Pediatrics. 2021;239:24-31.e1.
  7. 日本小児科学会.2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針.
  8. 厚生労働省.インフルエンザ罹患時の異常行動および抗インフルエンザウイルス薬に関する注意喚起.
  9. 厚生労働省 医薬・生活衛生局.抗インフルエンザウイルス薬の「使用上の注意」の改訂について.2018.
  10. Jeong HS, Lee YW, Rhee TG, Shim SR. Associations of oseltamivir with neuropsychiatric and behavioral adverse events: A systematic review and meta-analysis. J Manag Care Spec Pharm. 2025;31:1051-1061.
  11. Shinjoh M, et al. Effectiveness of Trivalent Inactivated Influenza Vaccine in Children Estimated by a Test-Negative Case-Control Design Study Based on Influenza Rapid Diagnostic Test Results. PLoS One. 2015;10:e0136539.
  12. Sugaya N, et al. Three-season effectiveness of inactivated influenza vaccine in preventing influenza illness and hospitalization in children in Japan, 2013-2016. Vaccine. 2018;36:1063-1071.
  13. American Academy of Pediatrics. Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2026-2027. Pediatrics. 2026.
  14. 日本小児科学会.日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 2026年4月1日版.
  15. Skowronski DM, et al. Randomized controlled trial of dose response to influenza vaccine in children aged 6 to 23 months. Pediatrics. 2011;128:e276-e289.
  16. Kalligeros M, et al. Influenza vaccine effectiveness against influenza-associated hospitalization in children: A systematic review and meta-analysis. Vaccine. 2020;38:2893-2903.