子育て中こそ、趣味をあきらめなくていい

子育て中こそ、趣味をあきらめなくていい

― 親でも、社会人でもない「自分」に戻る時間 ―

子どもが生まれると、自分のために使える時間は驚くほど少なくなります。

ゆっくり本を読む。スポーツをする。友人と会う。楽器を弾く。ゲームをする。何となく一人でぼんやりする。

それまで当たり前にしていたことが、子育てを始めた途端に難しくなった、という方は少なくないと思います。

そして、いざ自分の時間ができても、

「子どもを預けてまで出かけていいのかな」

「自分だけ好きなことをするのは申し訳ない」

「そんな時間があるなら、家事をした方がいいのでは」

そんな罪悪感を感じてしまうこともあります。

今回は、小児科の病気の話から少し離れて、 「子育て中の親が趣味を持つこと」について考えてみたいと思います。

お父さん、お母さんにも、好きなことをする時間があっていい。

子育てや仕事をしていると、一日のほとんどを「親として」「社会人として」過ごすことになります。 どちらも大切な役割ですが、ときにはその役割を少しだけ降りて、 親でもなく、仕事上の立場でもない、ただの「自分」に戻れる時間があってもよいのではないでしょうか。

趣味には、そんな時間をつくる役割もあるのだと思います。

これは単なる私個人の感想だけではありません。 近年、余暇活動や趣味と心の健康について、興味深い研究がいくつも報告されています。

子どもが生まれると、本当に「自分の時間」は減ります

初めて親になる夫婦を、妊娠中から産後1年間追跡したスウェーデンの研究があります。

その結果、母親では「自分一人のために使う時間」や「友人と過ごす時間」が減少し、 父親では運動する頻度が減少していました。[1]

子どもが生まれて生活の中心が大きく変わる中で、 それまで持っていた余暇の一部が自然と削られていくことは、決して珍しいことではありません。

別のスイスの縦断研究でも、親になることと余暇、仕事、心理的なwell-beingとの関係が長期間にわたって検討されています。[2]

子育てによって生活が変わるのは当然です。

ただ、「難しくなること」と「全部やめなければならないこと」は、別の話なのだと思います。

「自分のために時間を使うと申し訳ない」は、珍しい感情ではありません

特に母親については、「自分のための時間」を取ることへの罪悪感を扱った研究があります。

産後1年以内の母親を対象とした研究では、睡眠、運動、自分のための時間についてインタビューしたところ、 自分だけの時間はそもそもほとんど確保されておらず、確保できた場合にも罪悪感を伴うことがあった と報告されています。[3]

また、幼い子どもを持つ母親を対象とした研究では、 自分の健康のために運動したり、十分に眠ったりすることについても、 罪悪感が健康行動と関連していました。[4]

「自分のことを優先していいのだろうか」

そう感じること自体は、子育て中には起こりやすいことのようです。

でも、その罪悪感があるからといって、必ずしもその時間を手放す必要はありません。

親の罪悪感を扱った研究では、自分自身に対して過度に批判的にならず思いやりを持つ 「セルフ・コンパッション」を促すことで、子育てに関する罪悪感や羞恥心が軽減したことも報告されています。[5]

趣味は、ただの「暇つぶし」ではない

では、なぜ趣味や余暇が大切なのでしょうか。

医学誌 The Lancet Psychiatry に掲載されたレビューでは、 趣味、芸術、スポーツ、ボランティア、地域活動、人との交流などの余暇活動が、 健康にどのように影響しうるのか、多数の先行研究をもとに整理されています。[6]

好きなことを楽しむこと。

何かに集中すること。

少しずつ上達すること。

自分で選んで行動すること。

人とつながること。

体を動かすこと。

こうした心理的・社会的・行動的・生物学的な複数の経路を通じて、 余暇活動が心身の健康に関係する可能性が示されています。

子育てでも仕事でも、私たちは誰かのために考えたり、責任を負ったりする時間を長く過ごしています。

一方、趣味は多くの場合、 「自分がやりたいからやる」活動です。

好きなことに集中する。少し上達する。できなかったことができるようになる。 仲間と話す。あるいは、ただ楽しいと感じる。

趣味の時間は、子育てや仕事から逃げる時間ではなく、
そこで少し心身を整えて、また家庭や仕事へ戻っていくための時間にもなり得るのではないでしょうか。

「何の役にも立たないけれど、ただ好きだからやっている」

そんな時間も、きっと無駄ではありません。

子育て中の親を対象にした研究もあります

特に興味深い研究があります。

13歳未満の子どもを持つ親184人を対象として、

  • チームスポーツを行う
  • 一人で身体活動を行う
  • パートナーと外出する

という3群に無作為に分け、3か月間追跡した研究です。[7]

その結果、 チームスポーツに参加した群では、ほかの群と比べて精神的健康やパートナーとの関係満足度が改善しました。 また、親のストレス低下や、家族内での感情表現の改善もみられました。

もちろん、この研究は「すべての趣味」に同じ効果があることを証明したものではありません。 スポーツには身体活動そのものの効果もありますし、チームで行うことで人との交流も生まれます。

それでも、子育て中の親が育児とは別の活動に定期的に参加することが、 心理面や家族関係にも良い方向に働く可能性がある、というのは興味深い結果です。

趣味は必ずしも「家族から奪う時間」とは限らない、ということです。

人は「仕事の自分」「家庭の自分」「趣味の自分」で少しずつ違う

さらに、日本人の子育て世代に非常に近い研究があります。

2025年に発表された日本の研究では、30~39歳の日本人勤労者1,105人を対象に、 仕事・趣味・家庭という3つの「場」でレジリエンスがどのように異なるかが調べられました。[8]

レジリエンスとは、大まかに言えば、 困難やストレスに直面したときに適応したり、立ち直ったりする力のことです。

この研究では、同じ人であっても、仕事・趣味・家庭という場によって、 楽観性、問題解決志向、自己理解、他者への理解などのレジリエンスの表れ方が異なることが示されました。

私は、この結果をとても興味深く感じました。

私たちは、どこにいても全く同じ「一人の自分」ではありません。

仕事ではうまくいかなかった日でも、趣味では集中できるかもしれません。

家では子どもに振り回されて何一つ予定通りにいかなかった日でも、 好きなことをしているときには、 「自分で考えて、自分で選び、自分で少しずつ上達していく」という感覚を取り戻せるかもしれません。

そして、趣味の時間で少し気持ちを立て直したあと、 また家庭や仕事に向かうこともできるでしょう。

「親としての自分」「社会人としての自分」だけでなく、
そのどちらでもない「自分」でいられる場所を持っておく。

そんな場所が一つあることは、忙しい子育て世代にとって、 思っている以上に意味があるのかもしれません。

※なお、この日本の研究は「趣味のある人」と「趣味のない人」を比較した研究ではありません。 対象者はもともと週1回以上の趣味活動を行っている人たちです。 そのため、「趣味を始めればレジリエンスが高くなる」と因果関係を証明した研究ではない点には注意が必要です。

私の場合は、ジャズギターです

ここからは少し個人的な話です。

私自身、最近ジャズギターを習い始めました。

もともとギターは弾いていましたが、きちんと人に習い、ジャズを勉強するのは初めてです。

そして、かなり下手です。笑ってしまいます。

思ったように指は動きませんし、レッスンでは家で弾いているように全く弾けないこともあります。 今日もギターが下手でした、とつぶやきながら布団に入っています。

それでも、毎日少しギターを触って、新しいコードを覚えたり、 できなかったフレーズが少し弾けるようになったりする時間は、楽しいです。

ギターを弾いている間は、医師でも院長でも、父親でもありません。

ただの「ギターが好きな人」です。

ほんの短い時間でも、何かに夢中になったあとには、 また仕事や家庭に向かう気持ちが少し戻ってくるように感じます。

もちろん、これは私個人の実感です。

ただ、余暇活動と心の健康についての研究を読んでいると、 こうした感覚にも、それなりの理由があるのかもしれないと思うようになりました。

もちろん、楽器演奏である必要はまったくありません。

「立派な趣味」でなくていい

趣味というと、毎週スポーツをしたり、習い事をしたり、 何か特別なことを始めなければならないように感じるかもしれません。

でも、そんなに大げさに考えなくてもよいと思います。

本を読む。音楽を聴く。ゲームをする。走る。庭をいじる。料理を楽しむ。 写真を撮る。スポーツを見る。釣りをする。手芸をする。何かを集める。

自分がやりたいからやることなら、十分です。

毎日する必要もありませんし、何時間も確保する必要もありません。

「趣味の時間を毎日30分確保しよう」と、 新しいノルマを作ってしまったら、それはそれで疲れてしまいます。

子育てには、どうしても余裕のない時期があります。

今できる範囲で、 「これは自分が好きだからやっている」というものを、完全になくさず残しておく。

それくらいで十分ではないでしょうか。

もちろん、家族への感謝も忘れずに

趣味の時間を持つうえで、忘れてはいけないこともあります。

子育て中の時間は有限です。 どちらかが自分の時間を持っている間には、 もう一方が子どもを見てくれていることも多いと思います。

私自身も、こうしてギターを楽しめているのは家族の協力があってこそです。 このあたりは、偉そうなことを言える立場ではありません。

だからこそ、片方だけではなく、 夫婦それぞれが少しでも「自分の時間」を持てるようにすることは大切だと思います。

趣味を楽しむことと同時に、 その時間を支えてくれている家族への感謝も忘れないようにしたいところです。

親でも、社会人でもない「自分」に戻る時間を

子どもが小さい時期は、とても濃密です。

食事、着替え、送迎、お風呂、寝かしつけ、夜泣き。

子どもを中心に一日が動いていると、 「自分が何をしたかったのか」を考える余裕すらなくなることがあります。

もちろん、子どもと過ごす時間はかけがえのないものです。

でも、子どもを大切にすることと、自分の好きなことを大切にすることは、必ずしも反対ではありません。

現在の研究から、「趣味を持てば子育てや仕事がうまくいく」と断言することはできません。

一方で、余暇活動と心理的健康との関連は多くの研究で報告されており、 子育て中の親を対象とした研究でも、 自分の時間が失われやすいことや、 余暇活動が心の健康や家族関係に良い方向に働く可能性が示されています。

親には、親として過ごす時間があります。 仕事をしていれば、社会人として過ごす時間もあります。

でも、そのどちらでもない「自分」でいられる時間も、少しくらいあってよいのだと思います。

そこで少し元気になる。何かに夢中になる。少しだけ成長する。

そして、その余力を持って、また子どもや仕事に向き合う。 もし趣味がそんな時間になるのなら、決して後ろめたいものではないと思います。

「親なのに、自分の好きなことをしていていいのかな」

そう思うことがあったら、

「親だからこそ、自分に戻れる時間が少しくらいあってもいい」

と考えてみてください。

10分でも、30分でも、週に一度でも構いません。

昔好きだったことをもう一度始めてもいいでしょうし、 子育てを始めてから新しい趣味を見つけてもいいでしょう。

そして、もう一つ。

お父さんやお母さんが、仕事や子育てだけでなく、 自分の好きなことを楽しんでいる姿を子どもたちが見ることにも、 きっと意味があるのではないかと思います。

「大人になっても、夢中になれるものがあるっていいな」

そんなふうに感じながら育った子どもたちが、いつか大人になったとき、 それぞれに素敵な趣味を見つけて、長く楽しんでくれたら、素敵なことだと思います。

子どもと過ごせる時間を大切にしながら、親自身の好きなことも大切にする。

長く続く子育てだからこそ、親ではない「自分」も、どこかに残しておいてほしいと思います。

参考文献

  1. Zheng LR, Naurin E, Markstedt E, et al. A Longitudinal Dyadic Study of Six Leisure Activities in Swedish Couples During the Transition to Parenthood. Sex Roles. 2023;88:210–224. doi:10.1007/s11199-023-01351-3
  2. Roeters A, Mandemakers JJ, Voorpostel M. Parenthood and Well-Being: The Moderating Role of Leisure and Paid Work. European Journal of Population. 2016;32:381–401. doi:10.1007/s10680-016-9391-3
  3. Bettison S, Devonport TJ. Self-care in early motherhood: A qualitative exploration of sleep, exercise, and making time for oneself. Midwifery. 2025;148:104506. doi:10.1016/j.midw.2025.104506
  4. Miller CL, Strachan SM. Understanding the role of mother guilt and self-compassion in health behaviors in mothers with young children. Women & Health. 2020;60(7):763–775. doi:10.1080/03630242.2020.1713966
  5. Sirois FM, Bogels S, Emerson LM. Self-compassion Improves Parental Well-being in Response to Challenging Parenting Events. Journal of Psychology. 2019. doi:10.1080/00223980.2018.1523123
  6. Fancourt D, Aughterson H, Finn S, Walker E, Steptoe A. How leisure activities affect health: a narrative review and multi-level theoretical framework of mechanisms of action. The Lancet Psychiatry. 2021;8(4):329–339. doi:10.1016/S2215-0366(20)30384-9
  7. Rhodes RE, Beauchamp MR, Carson V, et al. Effect of recreational sport and physical activity participation on well-being during early parenthood: a randomized controlled trial. Annals of Behavioral Medicine. 2025;59(1):kaae081. doi:10.1093/abm/kaae081
  8. 上野雄己,平野真理. レジリエンスの「場」による変動性―日本人勤労者の仕事と趣味,家庭の場に注目して. パーソナリティ研究. 2025;34(1):72–83. doi:10.2132/personality.34.1.12
参考:
Mak HW, Noguchi T, Bone JK, et al. Hobby engagement and mental wellbeing among people aged 65 years and older in 16 countries. Nature Medicine. 2023;29:2233–2240. doi:10.1038/s41591-023-02506-1

年齢層は異なりますが、16か国・9万人以上を対象に、 趣味と心理的well-beingとの関連を検討した大規模研究です。